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■エンボスの復帰障害の解決法

エンボスをクリックした時に、形状が元に戻らずへこんだままになってしまうという不具合の解決法、および考え方をまとめてみました。
精密な測定器具も無い状態、かつ物理学の知識も乏しいために、本当にこの考え方が正解かは疑問ですが、ちゃんと復帰する製品が作れればOKという考えで行っています。飛び移り座屈に関する研究用の資料とかではありませんので、ご理解願います。

今回問題になっている製品のエンボスはこのようなものです。
エンボスクリック前 
このエンボスキーを押すと、こうなります。
クリック後の復帰障害
ぺこんと凹んだ状態から復帰できずにそのままの状態を保持してしまいます。

復帰するOK品です。


こちらは復帰しないNG品です。周りを指で押さえることで、なんとか復帰しています。


この加工を行う金型のPINとDIEはコレです。
エンボス金型のPINとDIE
リングを再現するための筒状のパーツと、ドームを形成するための円柱状のパーツです。
これを組み合わせて1つのパーツ(PIN側)を構成しています。
雌型は、このPIN形状とかみ合うように掘り込まれています。


飛び移り座屈の解決策を考える

ドーム状のキーエンボスにリングがあると、反転して戻らなくなるキーの出現率が上がります。
なぜそうなるのだろう?という考えは、飛び移り座屈について書いた前ページに記載しました。
@曲面の周長とドーム立ち上がり部分の直径の差が少ない。
Aリングがあるために、ドームの立ち上がりがゼロ基点に到達できない。
Bエンボスのエッジ部分がY方向にずれたことで、クリック(エンボスを押した時)時にエンボスドームのエッジ部分のアソビが大きくなり、形状を保持できなくなる。
上記3つを原因と考えているのですが、これが全てではないかもしれません。
しかし、この3つを解決すれば、復帰しないキーの出現率はかなり下がると予想しています。


飛び移り座屈によるエンボス復帰障害の具体的な解決策

@の解決方法は、ドームの高さを上げてしまうことです。
しかし、図面上には交差が記入されています。今回の製品の高さの上限は、0.45mmなのですが、エンボス加工時は0.5mmを越えたところを狙います。
エンボス加工後にラミネート機のロールを通す工程があるので、そこで一度つぶされることと、経時変化によるエンボスのダレで高さが下がることを考えると、0.55mmまでが安全圏でしょう。

Aの解決方法は、エンボスPINの形状を再現できればクリアできそうです。
エンボスPINは材料の厚み分+αで0.2mmほどのクリアランスがあります。したがって、エンボスのゼロ基点よりもマイナス0.2mmの位置まで下げることが可能です。しかしこのためには、エンボスの加圧時間を通常のエンボス加工の2倍に設定します。

Bの解決方法は、Aが解決すれば同時に解決します。

今回、この復帰障害を改善できなかった原因は、加工オペレーターおよび関係者が間違った対応を取ってしまったことにあります。
エンボスが復帰しないのは、リングが高いから、そしてドームが高いからだという、間違った思い込みをしていました。
エンボスが反転する時には、どのようなことが起こっているのかを考えることはとても大切なことです。

なお、ドーム形状の曲面のRを変えることはしていません。
今あるパーツで解決できなかった場合、第二段の対策として考えます。


エンボス作業

今回行ったエンボス作業です。
高さ調整用に使用しているシムを全部外します。その状態でエンボスを行ったのですが、当初の図面が、リング0.3mm、ドーム0.3mmだったので、リングに対してドームの高さがでない状態でした。
そのため中のドームPINの下にシムを入れ、リング高さをそのままでドームだけに下駄をはかせます。
 
透明のPETフィルムにエンボスしてみます。左が上からの撮影。右が裏からの撮影です。
リングとドームの谷が、ゼロ基点よりもマイナスになっているのがわかります。この状態のままで、解決策のAとBはクリアできそうです。
この状態で不良シートにエンボスしてみます。印刷したインキが切れてしまわないかの確認です。

インキ切れもなく、きれいにエンボスできました。クリックした時もちゃんと復帰します。

そして本番です。
 
表からの写真と裏からの写真です。
この製品はエンボスキーが3個あり、かつ2面型でエンボス加工を行うので、合計6つのキーがあります。
それぞれのキー毎に高さを調整し、全体のバランスを良くします。復帰障害はありません。
リングは0.22mm前後、そしてドームは0.55mm程度の高さを出しています。

なぜ復帰障害が解決したのか?

 
@ドーム
右図の紫線が今回出来上がったエンボスです。ドーム高さ0.55mm、リング高さ0.22mmです。
など、図面のようにドームの基点位置はマイナス0.2mmのところにあります。

ドームの周長は14.09976mm。つまり14,1mmです。ドームのエッジ部分との差は0.1mmです。
高さ0.3mmの不具合品が0.0003mm、0.4mmの場合が0.0097mmだったので、10倍の数値を出すことができました。

Aリング
リングの高さは0.22mmしかありませんが、ドームの谷部分はマイナス0.2mmの位置になるので、見かけ上は0.42mmのリングが存在することになります。見た目でもリング形状がしっかりと確認できるので問題ありません。
そしてドームの基点が0.2mm下がったとこにより、クリック(押圧時)のドーム谷部分のアソビが無くなりました。
実際には、シート裏に両面テープが張られるので、0.3mmの隙間ができてしまうのですが、マイナス0.2mmまで落とし込んだことにより、実質のアソビ幅は0.1になりました。
モールドに貼られた状態では、シートの0.3mm下には接点が存在します。つまり0.3mm以上押し下げられることはありません。
クリックのストロークは0.55mm+0.2mmで0.75mmあります。クリック感も満足できます。


解決方法のまとめ

上記の方法で解決しました。
エンボス全体を指の腹で押し、意図的に反転させようと思っても復帰します。
エンボスの加圧時間を通常の2倍としましたが、加圧時間を元に戻した場合、安定性が落ちてしまい、特にドームエッジの谷部分の落ち込み量がバラつく傾向にあります。ゼロ基点よりもマイナスの位置にないと反転してしまう場合があるので、安全マージンを確保するならば、やはり長めの加圧が必要なようです。

次ページでは、リングの曲面形状を変えてみました